深夜の調理場。
約1時間かけて包丁を研ぎ澄ます。
ひたすら無心に。
包丁を研ぎ終え、ふと思い出す。
初めて包丁を買った日の事。
お世話になった方から包丁を頂いた事。
仕事終わりに、毎日寮で包丁を研いだ事。
和食の料理人は揃える包丁の種類が多い。
仕事の上達と共に、少しずつ揃えていく。
若い頃は数少ない包丁を駆使して、
仕事を覚える事が楽しかった。
私は恵まれた事に、
自身の結婚式の日に、お世話になった方から、
その方が少しずつ買い揃えて使い込んだ包丁を何本も頂いた。
料理人から経営者になる覚悟を、包丁と共に示してくれた。
金沢の料亭時代、仕事が終わり寮に帰ると
自分よりも一回りも離れた若い料理人仲間が、
一斉に包丁を研ぎ始める。
1日も欠かさず毎日毎日。
私も一緒になって毎日研いだ。
有名料理屋たる所以を
垣間見るいい経験をさせて頂いた。
今もあの頃の仲間達は、
日本各地で毎日包丁を研いでいるのだろうと、
いつも包丁を研ぎ終えると想いを馳せる。
初給料で買った包丁
頂いた包丁
思い出が詰まった包丁
この先もずっと
この包丁と共に歩んでいく私の物語。