
先日、山に入った大将が
一本の立派な鹿の角と出会いました。
まるで山の神様からの贈り物のように
静かに姿を現したその角は
大きく美しく
手に取ると思わず息をのむような
存在感を放っていました。
鹿の角は、1年に一度自然に抜け落ち
また新たに生え変わるという
不思議な生命の循環を持っています。
この「再生」のサイクルこそ
古来より日本人にとって
特別な意味を持ってきました。
かつて稲作が生活の中心であった日本では
鹿の角は豊穣のシンボルとされていました。
毎年新たに生まれ変わるその姿に
作物の実りや暮らしの豊かさを重ね合わせ
人々は鹿の角に祈りを込めてきたのです。
また、鹿の角には
「厄を祓い、福や財を呼び込む」
といった言い伝えもあり
縁起物として大切にされてきました。
神社ではお守りや祭具として
使われることもあるほどで
その神聖な存在感は
まさに自然信仰の象徴とも言えるでしょう。
山に分け入り
こうした偶然の出会いがあるたびに
私たちは自然に生かされていることを実感します。
ただ山菜を採るだけではなく、
山の気配に耳を澄ませ
そこに宿る命や循環に思いを馳せる。
そんな時間は、
料理人にとっても
感性を磨く大切な学びの場でもあります。
力強く、美しいその角を見ていると
今年も無事に春を迎えられたことへの
感謝の気持ちが湧いてきます。
山の神様、そして自然の恵みに
心からの感謝を。
今年もまた、
良い季節が始まろうとしています。